2018年2月8日木曜日

甲州街道歩き 第1日(日本橋~芦花公園)


 甲州街道はこれまで2回踏破したが、いずれもいわゆるセクションハイク(すこしずつ区切って歩くこと)だった。今回は念願のスルーハイク(通して歩くこと)に挑んでみる。過去に日光街道のスルーハイクを行ったので、すこし距離は長くなるが、やれないことはないだろうと思う。

 なぜ歩くのかということは以前書いた(リンク)。 このエッセイを描き終えた直後に泊りがけで信濃境からゴールの下諏訪まで歩いた。上諏訪の宿で一泊し、翌朝、担当氏から「文字数足りねえよ」というメールをもらって青くなった――そんな思い出もある。

 2018年1月23日、ついに歩き出す。



 そしてこの雪である。

 前日に関東地方を寒波が襲った。これだけの雪が降ったのは4年ぶりだ。『先生とそのお布団』にも書いた、はじめて同人誌即売会にサークル参加するというその前日に降ったアレである。どうもタイミングが悪い。

 12:30頃、日本橋を出発。


 写っているのは愛用のトレッキングポール。これを突いて歩く。

 ネットで見た東海自然歩道を歩いた人の記録に「初日は半日だけ行動しろ」とあったので、その教えを守っている。最初はペースがつかめないし、どうしても気持ちが浮きたってついつい飛ばしてしまいがちだ。

 服装は、メリノウールのベースレイヤーの上にペラペラのウインドシェルという上半身、下半身は同じくメリノウールのタイツの上にショートパンツ、その上にレインパンツを履いた。靴はinov-8 の Rocklite 282 GTX という防水トレイルランニングシューズ。

 出発前、ポケットに入れておいたエナジージェルをチューチューしようと思ったら、見当たらない。どこかで落としてしまったようだ。幸先が悪い。

 東京駅の脇をとおりすぎてお濠にぶつかったら左折する。皇居の南側を半周するような感じで歩く。皇居ランナーの流れとは逆方向だ。


 半蔵門前で左折し、新宿通りへ。ここから新宿までの間は寺や神社が多くあるが、前に見てまわったのでパスする。

 ちゃんとした勤め人の中をトレッキングポール突きながら歩くのはなかなか恥ずかしい。「無為徒食」ということばが頭をよぎる。四谷の公園で、電子タバコを吸っている会社員2人組と隣りあってSOYJOYを食う。ろくに働きもせず遊ぶためのカロリーを補給するために食うSOYJOYブルーベリー味ほどうまいものはねえな(風評被害)。


 四谷4丁目交差点にて。ここにはかつて大木戸があった。ここより内側が「江戸」だったわけだ。


 同交差点で見つけた標柱。200km先のゴールを指示してくれている。きがるにいってくれるなあ。


 こんなところを歩く。

 信号待ちの間にメントスを食おうとしたら、筒の底が破れて地面に撒きちらしてしまい、しばし凍りつく。


 数字で示されるとつらくなる。本の売上もそう。

 疲れとともに「何やってるんだろうな、俺……」という思いもつのってくる。小説を書いているときにも同じ現象が起こる。おそらく、まともな勤め人をやっていても同様だったろう。それはつまり、いまこのときを懸命に生きていないということなのだ。だから何かこの人生が「仮」のものだという気がしてしまう。ならば懸命に歩くしかない――この果てしない甲州街道をよ……(見当ちがい)。


 上北沢駅入口交差点で首都高と別れる。


  さらに進んで、この二股を左へ。この日の道はあまり迷うようなところがない。基本的に京王線沿いに歩いていけばいい。

 芦花公園で今日はストップ。予定よりも長く歩いた。これで明日の行程が楽になればいいが。

 かつて『ヴァンパイア・サマータイム』を書いたとき、主人公の住む街を「大内山」という名前にすることは決めていたので、それに近い名前の京王線八幡山駅をモデルにしようと考えた。実際に行ってみると、いまひとつピンとこなかったので別の商店街をモデルにしたが、その隣の芦花公園駅近くにある同名の公園を終盤に出てくる公園のモデルにした。芦花公園の中には徳富蘆花の旧家が保存されていて、それが作中に登場する「公園の中の民家」に当たる。

 徳富蘆花といえば有名なのが大ヒット小説『不如帰』 だが、そこに出てくる有名なあのセリフを今度出る本の中で引用した。そのことをすっかり忘れて、そのあとに書いた『先生とそのお布団』の第1章冒頭でも引用してしまった。すっかり蘆花チルドレンである(そんな読んだことないけど)。

 このあたりには宿がないので、今日は家に帰る。駅で電車を待っているときにスマホを見たら、バッテリーが25%しかなかった。「あれ? さっきは50%あったのにな……」と思っていたら、見る間に15%になり、7%になり、電源が切れてしまった。おそらくサコッシュのポケットに入れておいたため、寒風でバッテリーがやられてしまったのだろう。明日から対策を施さなければ。

 家に帰り、Abema TVで『ダーリン・イン・ザ・フランキス』を観てから布団に入る。「な~んか旅の途中らしくねえなあ」という思いと「もっと知りたいな ゼロツーちゃんのこと」という思いに引き裂かれつつ就寝。

 明日は八王子まで歩く予定。30km弱。本格的な歩き旅がはじまる。

 2日目の記録はこちら(リンク)。